捨てることで生まれた
ゴルフとの出会い

自然と共存しながらラグジュアリー空間を演出する貸別荘として人気の〈NOT A HOTEL NASU〉、ユニークなデザインで公衆トイレのイメージを一新した〈千駄ヶ谷駅前公衆トイレ〉など、注目の建築物を手掛け国内外で活躍する建築家の谷尻誠。これまでの建築業界の固定概念にとらわれず、唯一無二のキャリアを築く彼には、業界や年齢問わず幅広い層のファンが多い。そんな彼がゴルフを始めたのは、あるタイミングがきっかけだったと語る。

「色々やめていくことにしたんです。やめることで時間が生まれると思って。いろいろなことに前のめりになってチャレンジしていた時期もあったけれど、50歳を目前にして残りの余生を考えた時に、やりたいことで人生を埋めていかないと勿体ないなと思ったんです。仕事に割く時間を決めた上で、それ以外は自分のやりたいことをやる時間を作ろうと決意しました」

それから平日は朝から夕方まで働いて、夜は家族と過ごすために直帰。週末や祝日はしっかり休む生活スタイルへと変化した。ちょうどその頃、仕事仲間に誘われたことがきっかけでゴルフを始めた。余白の時間が生まれた、いいタイミングだった。

「まだ仕事で忙しい時に誘われていたら、余裕がなくて続かなかったかもしれないですね(笑)。仕事仲間と一緒にゴルフに行くことがほとんどなので、コースを周りながら打ち合わせのようになって、アイデアが生まれることもあります。他のスポーツではなかなかないので、ゴルフの面白いところでもあると思います」

ゴルフと仕事で共通する
”選択すること”

ゴルフを始めてみると仕事との共通点を見つけた。断ることが苦手だった昔、どんどん仕事を受けた結果、あまりの忙しさに疲弊した時期があった。”やらないことを決める”という大切な視点に気づいた、その時の経験をゴルフのプレーと重ねる。

「ゴルフもどのクラブを絞るのか、選択が重要じゃないですか。コースを見極めたり、風を読んだり。気持ちよく打ちたいけど、あとのことを考えると打数を刻んだ方がいい時もある。そういう取捨選択や戦略が重要になる点は、経営と似ていると思います。

あと、ゴルフは反省のスポーツなんじゃないかと思うくらい、ラウンドが終わった後は反省会をしているんですが(笑)。仕事もうまくいった時ほど、なぜうまくいったのか考えることを大切しています。じゃないと”うまくいく”が作れなくなるから。たまたまうまくいくことも、それはそれでラッキーなのですけど、うまくいくための方法論を持っておいた方がいいと思うんです」

インプットも欠かせない
ゴルフ旅

よく行くお気に入りのゴルフ旅先は、別荘も構える千葉エリア。ゴルフの後は周辺にある気になる施設やレストランを訪れてインプットすることもルーティンになっている。

今1番気になっているスポットのひとつ、千葉県木更津市にある〈KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)〉内にできた地中図書館へ向かった。木や草花が生い茂る土の下に隠れた洞窟のような外観や、そこからは想像できないホールの設計。新しい図書館のカタチに感動し、刺激を受けた。

「ゴルフも思い通りにいかないからこその面白さがありますが、建築もある程度イメージしたものが形にできるようになってくると感動しなくなってしまう。感動というのは思いがけない瞬間に生まれるものだから、こういうインプットの時間を大切にしています。そして、なぜ今感動したのかをロジックにして、それをまた設計にフィードバックする。そうすることで感動のロジックを設計できるように意識しています」

〈KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)〉
〒292-0812 千葉県木更津市矢那3016−3
公式HP: https://kurkkufields.jp/
公式Instagram:https://www.instagram.com/kurkkufields/

続いて、千葉県鴨川市の高鶴山のふもとにある〈naeme farmers stand〉に訪れた。100種以上のハーブやエディブルフラワーの栽培や里山の環境再生、カフェの運営なども手掛けている。

数年前に北海道に土地を買い、小屋を建てたり、畑を造るプロジェクトを進めている。将来的には宿やレストランをつくる構想もあり、学びを得るために訪れてみたかった。

「元々田舎育ちということもあって、こういう山や森の中で遊ぶのが好きでした。今もゴルフ、釣り、キャンプなど外遊びでリフレッシュしていると、自然との共存がテーマの仕事を頼まれることが増えました。

自然と建築について考える上で地形や気候など、ある種の制約がたくさんあります。都市もまた法律という制約が多いけれど、そんなに移ろうものではない。そういう点で自然の中にものを作るのが、より挑戦的で面白いと思うんです。時にはどうしようもできない自然の強さがある中で、どう共存していくのかを考えていくのが楽しいです」

〈naeme farmers stand〉
〒296-0114 千葉県鴨川市細野1125-1
公式HP: https://naeme.farm/
公式Instagram: https://www.instagram.com/naemekamogawa/

EPONのものづくりに
共感すること

EPONのフィッティングを体験して、細かなニーズに応えるというものづくりのこだわりを実感した。

「丁寧なフィッティングしてもらったことで、この一本でもっとゴルフをしたいという前向きな気持ちになりました。自分にぴったりなものだと思うと愛着も湧いて、上達しそうな自信もついてきました」

誰が作っているのか、どこで作られたか。そんなストーリーがあるプロダクトに心打たれるからこそ、自分自身もものづくりにおいて大切にしたいことがある。

「いつも会社の仲間には、比較優位性を考えることが重要だと話しています。僕らの仕事も全てが指名ではなくコンペに出ることもあるので、どこかと比較された時に選ばれる理由をちゃんと設計する。それはきっとゴルフの世界も同じ。EPONの比較優位性は超精密鍛造によって、どの1本をとっても正確なものができるということだと思います」

location : GOLF5 COUNTRY OAK VILLAGE
世界的に評価の高いデズモンド・ミュアヘッドの設計。千葉県でもトップクラスの難易度を誇るコースは、スリルに富んだエキサイティングなホールが待ち受けており、ホールロケーションの美しさにも定評がある。